オープニングセッション

地方から新しいモデルをつくる。〜しあわせデザイン公開会議〜

10月13日(金)、オープニングセッション「地方から新しいモデルをつくる。〜しあわせデザイン公開会議〜」をKOTELO(立山町芦峅寺)で開催しました。これまでの「しあわせる。富山」の登壇者を中心に生まれたプレーヤーコミュニティ「しあわせデザイン」のメンバーが、地域社会が目指す未来のカタチや具体的なアクションについて話し合いました。

明石博之

場ヅクル・プロデューサー、グリーンノートレーベル株式会社 代表取締役

徳田琴絵

ライター / インキュベーション施設HATCHコミュニケーター

中川めぐみ

株式会社ウオ― 代表取締役

南部歩美

藍染め屋aiya、つなぐプロジェクト

羽田純

株式会社ROLE 代表/デザイナー

原井紗友里

株式会社オズリンクス 代表取締役社長

坂東法子

家印株式会社、みらいまちラボ ホスピタリティ・マネージャー

前田大介

前田薬品工業株式会社 代表取締役社長

地域での取り組みを加速させる「新しいインフラ」とは

 民間主導型の官民連携組織として設立された「しあわせデザイン」。富山県が掲げる「幸せ人口1000万」に向けて自分たちができることは何なのか、これまでも議論を重ねてきました。今回の公開会議のテーマは「新しいインフラ」。県内の各地域でまちづくりなどのプロジェクトに取り組んできた「しあわせデザイン」のメンバーが、。その取り組みを加速させ、県民の幸せを実現するための「新しいインフラ」について、意見を交わしました。

 新しいインフラについて、デザイナーの羽田さんは「道路をはじめとした既存のインフラは老朽化が進んでいるが、その時代に作られた考え方というのも老朽化していて、今そのやり方自体が通用しないこともある。だから、固定概念にとらわれない発想を入れて、既存のインフラをつくり変えている。そういうことを踏まえたときに、全く新しいことを考えるよりは、今あるものを整え直したり、編集したりするのも新しいインフラの一つの形なのでは」と考え方を提案。また、高岡の鋳物職人たちと活動するなかで感じている、プロデューサーの必要性についても訴えました。

 「職人の業界は全国的に生産力が落ちていて、売れていたものが売れなくなっている。このような業界に対して行政は、『減ってきた職人たちをどう増やしてどう育てるか』といったように、技術に対して補助金などをつけて支援している。でも、そもそも売れる構造が成り立っていない。なぜ新しい道をつくるプロデューサー側を育てる構造がないのか。プロデューサーを育てた方が、僕は絶対にいいと思っている」(羽田さん)

 坂東さんは新しいインフラの文脈から、朝日町に設立した団体「みらいまちラボ」の活動を紹介。「朝日町だけを良くしようとしても駄目。どうして東京に活気があるのかというと、日本、世界を良くしようと思っている人たちが集まっているから。朝日町だけではなく、隣の町、富山県、そして日本を良くしていくという気合いでまちづくりをしていかなければならない」とした上で、県内外の人たちがつながる場をつくり、テーマに沿って一緒に地域課題を考える時間を設けていると説明しました。

人との出会い、繋がりがさまざまな価値を生む

 インキュベーション施設でコミュニケーターを務める徳田さんは、新しいインフラについて「その地域の暮らしを楽しむ一人ひとり」だと考えを述べました。「もともと私は“眠っていたインフラ”だと思っている。地域のことを全く知らず無関心だった。でも、地域で自分らしく活動している人たちとの出会いがあり、富山はとても面白いと気付いて、これを発信している」と、現在の活動に至ったきっかけを説明。「自分らしく地域の暮らしを楽しんでいる人が、次の人のアクションや、眠っている新しいインフラを呼び起こすのでは」また「『しあわせる。富山』もそうだが、外からいろんな新しい人たちが、新しいインフラとして入ってくることが、地域の活性化につながるのでは」と投げかけました。

 水産業を生かした地域活性化に取り組む中川さんも、一人ひとりが幸せになるためには多様なインフラが必要になるとした上で、「人と人との出会いやコミュニケーション、繋がりは特に重要なインフラだと思う」と徳田さんに同調。自身が会社を設立した際のエピソードを交えながら、コミュニティの必要性について語りました。

 「株式会社を設立しようと思ったのが2年弱前。その時はまだどこでつくるか決めておらず、東京にしようと思っていたのが、ある富山の人と出会った3ヵ月後にはもう富山でつくっていた。そうした人との出会いが入口としてあれば、一気に(物事が)進む。コミュニティをインフラ化していくにはどうすればいいかについて、もっと語り合えたら嬉しい」(中川さん)

 人と人との繋がりをどのように創出していくべきなのか。魚津市鹿熊の古民家で暮らす南部さんは、日本で長く大切にされてきた結(ゆい)の文化について触れ、「結の文化はそのままでは今の時代にはフィットしないが、今の時代に合った助け合いや繋がりはすごく必要」と意見を述べました。また、藍染め屋として、村の方たちの協力や手助けなしには畑に藍の種を一つ植えることすらできないといい、「村の皆さんとの関係性が成り立っているからこそ、私は藍染めを通して鹿熊の未来をもっと良くしたいと思える。鹿熊がモデルケースとなるのであれば、それを全国の里山に広げていきたい」と意気込みを語りました。

 また、地域内の出会いや繋がりだけではなく、「外から多種多様な考え方や人を受け入れることで、富山がもっと面白くなるのではないか」と話した南部さんに、八尾で旅館やゲストハウスなどを営む原井さんも賛同。「まちの人が外国人のゲストと出会ったとき、まちの人たちにとっては当たり前かもしれないけど、外から見るとスペシャルな毎日を送っていることに気付く瞬間がある。当たり前の中にあるハッピーを見つけるために、外部刺激をどうやってつくり続けていくかが大事な要素」と、まちの人たちが幸せを感じるために外の視点を取り入れる重要性を強調しました。

人や店が集まる場所を戦略的につくることが必要

 一方、射水市の内川エリアを拠点に活動する明石さんは、自身の取り組みを振り返り、「店や宿ができること自体がまちのインフラだと思う」と話しました。

 「1、2店舗だけではどうしようもないけど、20店舗、30店舗とできていくことで、やっとそのまちの魅力が認められるタイミングが来る。建物自体がインフラかと言ったらそうではなくて、そのまちに魅力を感じた人が来て、そこに新しい風が入ってきて、『そのまちに何か魅力があるんじゃないか』みたいなものに、また人が呼び寄せられて来る。これ自体がインフラなんじゃないかと思う。そんな好循環が起こるようなインフラをつくっていけたら。」(明石さん)

 会場で参加していた成長戦略会議委員の高木新平さんは、「富山で面白いことをやっている人たちが一塊になることによって、経済的な可能性や、新しいことにチャレンジできる場として認知される。そこに銀行がお金を出すかもしれないし、一緒にコラボしましょうという企業が出てくるかもしれない。そういった人たちがギュッと集まれる場所を戦略的につくっていくことが、新しいインフラの一つの考え方になると思う」と発言がありました。

 また、同じく会場で参加していた成長戦略会議座長の中尾哲雄さんは、「集積に加えて、結びつきが大事。企業と企業の“業際化”、市と市の“市際化”、30代・40代や60代・70代世代との“世代際化”など、皆で横に結び合って、持っているものと持っているファクターを組み合わせたら新しいものが生まれる。」とお話いただきました。

 最後にモデレーターの前田さんが「しあわせデザインのチームとして今日話したことを軸に、富山が掲げる幸せ人口1000万に通じるようなインパクトのある活動をしていきたい」と意気込みを語り、セッションが締めくくりました。