成長戦略セッション

「富山県成長戦略」は富山にどんな変化をもたらしたのか

 10月14日(土)、成長戦略セッション「富山県成長戦略は富山にどんな変化をもたらしたのか」をKOTELO(立山町芦峅寺)で開催しました。富山県成長戦略会議は2021年2月にスタートし、3年目を迎えます。これまでの成長戦略の取り組みを新しいモデルづくりにつなげるため、成長戦略会議の委員やプロジェクトチームのメンバーが今後の展望について語り合いました。

石川善樹

予防医学研究者、博士(医学)
富山県成長戦略会議ウェルビーイング戦略PT委員

熊野正樹

神戸大学 産官学連携本部 教授
富山県成長戦略会議スタートアップ支援戦略PT委員

高木新平

株式会社ニューピース 代表取締役CEO
富山県成長戦略会議委員、ブランディング戦略PT座長

藤井宏一郎

マカイラ株式会社代表取締役CEO
富山県成長戦略会議副座長、新産業戦略PT座長

前田大介

前田薬品工業株式会社 代表取締役社長
富山県成長戦略会議副座長、まちづくり戦略PT座長

取り組みが加速する「成長戦略6つの柱」

 セッションの前半は、富山県が成長戦略の中核として定める6つの柱について、これまでの取り組みと今後の展開が共有されました。ウェルビーイング戦略PT委員の石川さんは「ウェルビーイング」という抽象的なものを具体化するために県民意識調査を行った結果、働き盛り世代の働きがいや自分時間の充実に関する実感が低かったことに着目。働き盛り世代にターゲットを絞り「働く人すべてがいきいきと“働きがい”を実感できるウェルビーイング経営の推進」を一つの重点テーマとしていくと語りました。

 モデレーター兼まちづくり戦略PT座長の前田さんは、まちを構成するものについて「最終的には人」と強調。重点テーマとして「キーパーソンと言われる人をいかに増やすかを根源に置く」と戦略の方向性を示しました。具体策として、官民一体となった法人「しあわせデザイン」を設立したことを紹介。「どの地域にも共通して足りないものがある。そこに対してシンクタンク機能を果たしながら、幸せ人口1000万人に繋げられる富山のプレーヤーやプロデューサーをしっかり育てていきたい」と意気込みを語りました。

 ブランディング戦略PT座長の高木さんは「『寿司と言えば、富山』というブランドイメージを戦略的に発信していく」と話し、寿司に焦点を絞った理由については「高低差4千メートルという世界的にも珍しい地形によってもたらされる豊富な魚種や米、酒。そしてクラフト文化。こうした要素を一度に発信、体験できるものが寿司にはある」と説明しました。10年かけて認知度90%を目指すと同時に、職人不足という課題に対しては「寿司職人を増やしていくような学校をつくっていく」と話しました。

 新産業戦略PT座長の藤井さんは、富山県の製造業における従業員数および売上高は全国トップクラスであると前置きした上で、「ウェルビーイングの実現には今ある産業のアップデートが欠かせない」と主張。必要な取り組みとしてクリエイティビティを重視し、BtoB企業がBtoC向けの商品をプロデュースする流れをさらに加速させると同時に、クリエイティブ人材の育成や企業に対するブランディングマインドの浸透に取り組んでいきたいと語りました。

 スタートアップ支援戦略PT委員の熊野さんは、富山の開業率が低く、大学発ベンチャーの数も全国下位であることから起業家の発掘や支援に取り組んでいることを紹介。ベンチャーキャピタルや支援機関が起業家の発掘を行っているほか、東京で「とやまスタートアッププログラム」を実施。参加者には富山県出身者をはじめ関係人口と呼ばれる方々も多いと手応えについて話しました。また「そこからスタートアップをロールモデルとして生み、育てていくことが何より重要」と強調しました。

 県庁オープン化戦略については、座長の代理で、富山県庁の川津知事政策局長が「チャレンジする人材の育成と職員の意識改革」を重点テーマとし、長期的な研修や庁内広報を通して職員がチャレンジできる機運を醸成していることを紹介しました。また、今後の展望として「研修や庁内広報等を通じた職員のマインドセットや、アントレプレナーシップ、デザイン思考の浸透を強化していきたい。県庁内につくった共創スペース『コクリ』も活用しながら成果を出していきたい」と力を込めました。

成長戦略がもたらした変化や影響とは

 セッションの後半は、成長戦略を進めている中でそれぞれがこの1年間で感じた変化について語り合いました。藤井さんは「知事のお膝元だけあって、県庁オープン化戦略が一番早いスピードで改革している」と発言。具体的な取り組みとして、若手職員チャレンジプロジェクト、庁内複業制度、庁内広報「BEYOND」、共創スペース「コクリ」を紹介し、県庁全体で意識の変化が起きていると評価しました。新田知事は「県庁を良くしよう、富山県を良くしよう、市町村を良くしよう。そうした職員の提案には基本的にすべてOKを出している。役職に関わらずフランクに提案を求めており、富山県を良くするためなら肩書きは関係ない」と話しました。

 石川さんは、政府の「骨太方針」に、富山県に3年遅れてウェルビーイングの文言が記載されたことを紹介。国の成長の柱にウェルビーイングが位置づけられた背景として「富山県での取り組みというものが先行事例としてあったことは大きい」と述べました。「富山が与えた影響が全国へ波及しており、ウェルビーイングを政策の柱に掲げる自治体が続々と誕生している」と話し、富山県が全国、さらには世界に先駆けていると強調しました。

 熊野さんは、「3年前は、スタートアップというのは東京にあって富山に無い、都市伝説のような言葉だったが、これを成長戦略の柱に大胆に入れたことによって、本当に動き出した」と県内でスタートアップの機運が高まっている実感を語りました。
また、「T-Startupで上場を目指すようなロールモデルが実際にいくつも目に見えてきたし、企業もスタートアップを支援しだした。また、富山大学と富山県立大学に『起業部』という学生が集まって起業を目指す部活動ができた。」と話しました。

 熊野さんの話を受けて、高木さんは、「(成長戦略会議のように)枠組みを用意して『こういうことをやっていくんだ』というテーマを置くのが大事。」と語り、「テーマを実体化するまでには時間がかかる。タイムラグはあるが、県民の皆さんや県職員と一緒に、具体化していくことが重要」と加えました。

 また、会場で参加していた元県知事政策局長(現経済産業省)の三牧さんが、成長戦略会議の立ち上げに関わった経験から、「壁を壊していこうというのが成長戦略全体のテーマ。県庁オープン化をこれまでも進めてきたし、官民連携という言葉がなくなるくらいのところを目指してこれからも進めてほしい」、「『しあわせる。富山』も3回目を迎えて、外の人が富山に関わりやすくなっている。どんどん続けて、県内外とか県外とかいう言葉を使わなくてもいいくらいオープンな県になってほしい」とエールを送りました。

 最後に前田さんは「成長戦略会議で2年間学んだことをベースに、私の会社で『前田薬品成長戦略会議』を行った。そこで最終的に行き着いた2030年ビジョンのKPIが『幸せ指標』だった。そこから戦略を立てているが、やはりこの会議にシンクロする部分が多い。成長戦略会議は皆さんにとって遠い存在じゃない。今後も続いていくので、身近に感じて、何か学ぶことや盗めるものがあるのではと応援して欲しい」と参加者に呼びかけました。