地域ブランディング × 新しいモデル

「寿司と言えば、富山」地方ブランドは本当に作れるのか?

10月14日(土)、スペシャルセッション「『寿司と言えば、富山』地方ブランドは本当に作れるのか?」をKOTELO(立山町芦峅寺)で開催しました。富山は「何もない県」というイメージを変えるべく、県はこれまでにない一点突破型のブランディング戦略を打ち出しました。富山県が掲げる寿司戦略で、地方ブランドは作れるのか。各分野の専門家が徹底的に議論しました。

柏原光太郎

ガストロノミープロデューサー

高木新平

株式会社ニューピース 代表取締役CEO

中川めぐみ

株式会社ウオー 代表取締役

富山の寿司が秘める可能性とは

 富山県のブランディング戦略では、「寿司と言えば、富山」という地方ブランドの確立を目指しています。成長戦略会議のプロジェクトチームの座長として、この一点突破型のブランディング戦略を立ち上げた高木さんは、標高3000m級の立山連峰から水深1000mの富山湾が非常に近い距離にあるという富山県の地形に、「圧倒的固有性がある」と訴えます。そのうえで「立山連峰からのミネラル豊富な水が富山湾に流れ込んでおり、富山湾には、日本海に分布する約 800 種のうち約 500 種の魚が生息している」「新鮮で美味しい魚介や米・農産物、酒や伝統工芸品の器など、寿司が、富山県が世界に誇る魅力の入り口になる」と、「富山県=ウェルビーイング」の認知度を向上させる「フック」としての「寿司」の可能性を語りました。

 ブランディング戦略では、この「寿司と言えば、富山」というブランドイメージを10年かけて県外認知度90%にするという目標を掲げています。果たしてその目標は実現できるのか。冒頭、モデレーターの高木さんが会場に挙手を求めると「できる」と「できない」が半々。登壇した柏原さんと中川さんも、最初は半信半疑だったといいます。

 食のプロである柏原さんは「寿司は『江戸前寿司』と誰もが言うように、まずは江戸前の文化がある。地方では、金沢が圧倒的なスタンダードをとっているとフーディー(美食家)は思っている」と発言。さらに「富山は回転寿司が評価されているが、回転寿司のためにわざわざ東京から新幹線に乗って富山まで来るのか」「富山は魚もご飯も美味しいけど、同じようなところは日本中にいくらでもある」と、富山の寿司の独自性に懸念があったと明かしました。

 では、富山県は本当に「寿司と言えば、富山」を確立できるのか。柏原さんは検証のため、9月に2泊3日の弾丸寿司ツアーを敢行。立ち食いの寿司屋、深夜営業の寿司屋、老舗の寿司屋など特徴の異なる6店舗に訪れたとエピソードを語り、「呑んだ後に寿司をつまんで帰るというスタイルの店が多いと感じた。富山には独自の『呑み寿司』文化があるのではないか」との仮説を示しました。

 また、ネタにひと手間加える江戸前寿司に比べ、富山の寿司は「美味しい米に、きときとの魚をのせる『のっけ寿司』ではないか」と指摘。ます寿司やいわな寿司といった富山独自の寿司や、昆布締めの文化があることにも触れ、「いくらでも富山独自の新しいネタのつくり方ができる」と見解を述べました。

 寿司業界で「仕事」や「手当」と言われるような技術を磨くことが重要だという柏原さんに、魚×地域活性性を目指す中川さんも同調。富山は漁港から漁場までの距離が非常に近く「魚の鮮度は他の地域でなかなか真似できない」とした上で、「富山は新鮮な魚が手に入るからシンプルでも優位性があった。一方で、鮮度が良い魚が手に入りにくい地域は、神経締めや放血などの技術の発展が早かった。富山のきときとな魚に技術が加われば、鮮度に加えて、違うポテンシャルも最大限に発揮にできる」と語りました。

 つまり、寿司も魚も技術を磨くことで素材の美味しさを最大限に発揮でき、富山ならではの独自性もつくり出せるのではないか。富山の寿司が秘める可能性について、両者から前向きな意見が出されました。

寿司職人が集まり、高め合う場をつくる

 職人や後継者が不足しているという課題に対して、中川さんは「富山は料理人を呼ぶポテンシャルがある」と主張。地方で生産現場から関わりたいと考える料理人が増えているなかで、富山の地理的な優位性は一つの魅力になると説明しました。また、寿司職人を富山に呼び込むために、富山の寿司について明確に言語化すること、外から人を受け入れる力の2つが必要だと話しました。

 柏原さんは、美食でまちおこしに成功したスペイン・サンセバスチャンの事例として、レシピのオープンソース化を紹介。「レシピを誰でも見られるようにしたことで、客はどの店に行っても美味しさが保障されるようになった。同時にシェフの技術も高まっていった」と、成功要因の一つになった理由を話しました。

 続けて、東京では近年、若手の寿司職人たちが情報交換をして高め合い、伝統にとらわれない新しい寿司の提供の仕方をしていると紹介。「富山の寿司がこの先良くなるためには、情報交換できるような場や雰囲気づくりが大切。富山はコンパクトな県なので連携しやすいのでは」と職人同士の連携の必要性について強調し、期待を寄せました。

 これに対して高木さんは、寿司職人を増やすための学校をつくるというビジョンを紹介。寿司人気が国内外で高まっていることを踏まえ、「富山で寿司を学んだ」という職人を増やすことで、国内のみならず世界にも富山の寿司ブランドを広められるのではと展望を語りました。

 最後に、高木さんが「寿司と言えば、富山」という地方ブランドはつくれるかと会場に尋ねると、会場のほぼ全員が「つくれる」と挙手。今後ブランディングを進めていくにあたっての確信を得られるセッションとなりました。