まちづくり × 新しいモデル

「アートでまちを変える」を考えてみよう

10月14日(土)、スペシャルセッション「『アートでまちを変える』を考えてみよう」をKOTELO(立山町芦峅寺)で開催しました。地域の方々が、あるプロジェクトをきっかけに連携を深めていくことが、チームビルディングにつながり、地域の魅力を高める好循環を生み出すと言われています。今回は、アートをきっかけに、地域が抱える様々な「社会課題」を「魅力」に転換して、望む未来へとつなげていくために、「アート」や「まちづくり」に興味のある⼈たちが集まり、具体的なアクションへのきっかけとなる場を目指して議論しました。

明石博之

場ヅクル・プロデューサー、グリーンノートレーベル株式会社 代表取締役

池田親生

竹あかり演出家/CHIKAKEN共同代表

坂東法子

家印株式会社、みらいまちラボ ホスピタリティ・マネージャー

松田崇弥

株式会社ヘラルボニー 代表取締役社長

まちづくりにおいてアートが持つ力とは

 登壇者それぞれが地域で取り組んでいる事業のなかで感じている「アートが持つ価値や力」について語り合うことからセッションはスタートしました。熊本を拠点に活動している竹あかり演出家の池田さんは、放置されていた竹に穴をあけ、ろうそくやLEDライトであかりを灯すイベントを全国各地で開催。竹に穴をあける作業はできる限り多くの人に携わってもらえるよう工夫しているといい、アートが人の繋がりを生み出し、放置竹林の問題を解決する糸口にもなっていると力説しました。

 岩手に本社を置くヘラルボニーの松田さんは、知的障害のあるアーティストとライセンス契約を結び、彼らの作品を軸としたさまざまなビジネスを展開。今まで市場に出ていなかったアーティストの作品も「アート」として発信することで、数十万という値段がつき、百貨店や美術館に置かれるなど、社会的に受け入れられやすくなることを具体例を交えて説明しました。

 アートの価値や力を「魔法のよう」と形容する2人に、富山でまちづくりに取り組む明石さんも同調。「クライアントの課題を解決するという意味合いを含んだデザインに対して、その限界を突破してくれるのがアート」とした一方で、「アートをうまく使って、地域をいかに変えていくかがまちづくりの一つのテーマ。自分も含め、富山はまだデザインの壁を超えられていない。2人の力も借りながら、今日この場がチャレンジのきっかけになれば嬉しい」と期待を語りました。

小さなアクションが365日を変えられる

 では、アートが持つ価値や力でまちを変えることはできるのか。松田さんは自社の事例として、建設現場の仮囲いにアートを描くプロジェクトを挙げました。岩手県ではこの仮囲いを建設会社が導入することで「工事成績評定」に加点される仕組みがあり、必然的にアートが描かれた仮囲いが増え、まちの景観が美しくなっていると紹介。「富山県としても景観条例を定めたり、公共調達で優遇したりして(アートのあるまちづくりを)推進していくと面白いのでは」と提案すると、明石さんも「公共施設の建設予算の数%に必ずアートの予算を入れるとか。それが究極の理想とするまちづくりの姿だ」と賛同しました。

 池田さんは全国各地で空間装飾をするなかで、短期間のイベントであれば挑戦的なことがしやすかったといい、「まちを365日変えることは難しいかもしれないが、1日だけ理想のまちをつくることは可能なのでは。逆に、1日だけでも理想のまちをみんなで体感することができれば、365日を変えられる可能性がある」と意見を述べました。

 これに対し、明石さんとモデレーターの坂東さんも自身の知見を付け加えました。

 「全国の芸術祭に行くと、必ずと言っていいほど空き家や古民家を使ったアートがある。365日安心安全に過ごせる場所をつくろうと思うと建築基準法などの高いハードルがあるが、イベントのなかでアート作品にするのは許される傾向がある。期間限定で建築基準法の規制を外す条例をつくるなど、アートイベントを入口として、法律や条例を変えていくとういことができるのでは」(明石さん)

 「アートでまちづくりを推進しているポートランドには、シティリペアプロジェクトという交差点に絵を描く活動がある。最初は条例違反だったが、人が集うなどの価値が見えたことで条例自体が変わり、今では行政公認のプロジェクトになった。楽しいことをスモールスタートでやることが、条例をも変えられるようなインパクトやエネルギーになる」(坂東さん)

 また、アートでまちを変えるためには、「県内でアートを絡めたイベントや社会実験を積極的に行っていくこと」、「行政だけなく県民一人ひとりがアートの価値を評価する目を持つこと」が重要だと明石さんは強調しました。

アートで富山を変えるためにできること

 最後に、富山でどんなことをやっていきたいか、登壇者それぞれから具体的な展望が語られました。池田さんは、明石さんとの繋がりで「何かをやることは決定している」とした上で、「竹あかりのイベントを開催したい」。松田さんは、障害のある人が働く海外のカフェチェーンを紹介しつつ、寿司を起点としたブランディング戦略の一環で「(障害者が)おまかせ握りでひたすらサーモンを出す「偶発的な寿司屋」といったことも『アート』と言えば許される場合があると思う。そうした実験的なお寿司屋さんを作品としてやってみたい」と話しました。

 明石さんは「突破できないものを壊せるのがアートの力。今の富山には壊す人が必要」とした上で、全国の人を巻き込みながら「自分はアートの敷居を下げて、みんながアーティストと言えるようなカルチャーを作っていきたい」と意気込みました。多彩なビジョンが語られ、ここから富山が変わる予感を感じさせるようなセッションとなりました。