スタートアップ × 新しいモデル

なぜ、富山はスタートアップが少ないのか?

10月15日(日)、スペシャルセッション「なぜ、富山はスタートアップが少ないのか?」をKOTELO(立山町芦峅寺)で開催しました。熱意とアイディアあふれる起業家が生まれ、大きく羽ばたくには、強力なサポーターとのネットワークが欠かせません。「起業が少ない富山」の現状を見つめ直して、スタートアップが生まれる場所に変えていくための方法について、行政や学校・大学、金融機関や投資家など、さまざまな分野のサポーターと起業家が共に考え、チームとなる場を目指して議論を深めました。

榎崇斗

taneCREATIVE株式会社 代表取締役

廣岡伸那

株式会社andUS 代表取締役 /EO Hokuriku 会長

藤野英人[オンライン出演]

レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役会長兼社長 CEO&CIO

村口和孝[オンライン出演]

株式会社日本テクノロジーベンチャーパートナーズ 代表取締役社長

加藤哲朗

株式会社IoTRY CEO/一般社団法人T-Engine 代表理事

起業に対する思い込みを外すことが重要

 なぜ富山はスタートアップが少ないのか、問題の根源を探ることから議論がスタートしました。村口さんは、富山に限らずどの地方にもある問題だとした上で、「18歳で県外の大学に進学し、そのまま地方に戻ってこない状況がある」と要因を説明。仕送りで地方から都市部へお金が流れるなど、経済的な悪循環も発生していると言い、「何とか打破しなければいけない」と危機感を示しました。

 榎さんは「『起業するなら東京の方が成功できる』、『地方ほど出る杭は打たれる』という2つの思い込みがある」と発言。佐渡島での体験を交えながら「東京に行ったら埋もれる会社でも、地方で頑張っているからこそ輝いて見えることがある。また、佐渡島でも起業を応援してくれる人がいて杭を打ってくる人はいなかった」と、思い込みを外すことの大切さを話しました。また「思い込み」という点について、廣岡さんと藤野さんもそれぞれの考えを付け加えました。

 「ベンチャーやスタートアップは今までにない『新しい○○』を作っていく存在だとは思うが、これは、まったく誰も思い付いてない、この世に存在していないものを作らないといけないという意味ではなく、、今あるものをくっつけるだけでも良い。『新しい○○』に対する思い込みが取れると、もっと起業が増えるのでは。さらに地方では、新しいものは東京に眠っているという思い込みがベンチャーやスタートアップに蓋をしているように思う」(廣岡さん)

 「起業は『何もないところに高いビルを建てる』といったイメージがあり、非常にしんどいという思い込みがある。そうではなくて、不便なものや足りないものを見つけ、誰もやっていないことを自分がやる。『穴を見つけて穴を埋める』と考えると随分楽になるのではないか」(藤野さん)

 また、村口さんは2人の発言を受けて「学ぶは真似る」という言葉で成功するための心構えを表現。「オリジナリティを生み出そうとすると、逆に発想が狭くなってしまう。若者は成功事例をどんどん真似ていくといい。富山で真似るべきは『薬売り』の成功。県内にとどまらず、人口の多いところに売れるものを売っていくという商売で成功してほしい」と、富山の若者に対して具体的なアドバイスを送りました。

起業家を支えるサポーターの必要性

 地方に起業家が少ない理由の一つとして、「サポーターの存在が足りないのでは」「起業家とか新しい取組みをしようとしている『変人』を馬鹿にせず、サポート、フォローしていくことが重要」と廣岡さん。藤野さんも「周りの人が『変人』に対して『いいね』といってあげることで、自信がついて頑張れる」と加えました。
では、なぜサポーターが必要なのか。村口さんは「スタートアップが最初に投入する商品は失敗する法則がある」といい、失敗に直面したときに精神的支えとなる人が必要だと説明。

 これに藤野さんも強い同意を示し、「『勝つか負けるか』ではなく『勝つか学ぶか』。要するに失敗は学びの大チャンスと考えると、チャレンジすることには何の損もない。『勝つか学ぶか』というのは、行動を促すための非常に良い考え方だと思う」「(失敗を恐れずにチャレンジするということが)自分のマインドとの闘いだからこそ、逆に、失敗を許容して助言するサポーターの存在が必要」と述べました。

 また、サポーターの力で危機を乗り越えた会社として、村口さんからはディー・エヌ・エー、藤野さんからはプレミアムウォーターホールディングスの事例が紹介されました。

スタートアップが生まれる場所になるために

 富山でサポーターが育まれる環境とは。藤野さんは「起業家を育てる以上にサポーターの力が必要」と、改めてサポーターの重要性を強調し、次のように続けました。

 「実は、東京でベンチャー企業が輩出されるようになったのはここ最近。約20年の間にさまざまな企業が生まれ、失敗と成功を繰り返して成長したと同時に、それを支えた銀行、証券会社、公認会計士、弁護士、税理士、役所も一緒に成長していった。富山県も起業家だけが成長するのではなく、みんなで成長していくことが非常に大事」(藤野さん)

 また、スタートアップを成長させる環境という観点で「富山は成長戦略会議や『しあわせる。富山』、T-Startupなどの取り組みを通して随分良くなってきている」と評価した藤野さん。一方、村口さんは「未来を担っていくのは若者なので、若者たちがスタートアップに目を向けるような教育に力を入れるべき」「学校で、富山を豊かにするのは産業であり事業であるということを教えるべき」「新しいことをする人の足を引っ張らずに許容する空気が重要」と話しました。

 榎さんは佐渡島で企業誘致を進める団体「NEXT佐渡」の事例を紹介。「起業家を無理やり掘り起こして支援するのではなく、99%企業誘致に振り切って全力をあげている」と言い、佐渡市と関係チーム一丸となって、誘致企業数48社・雇用者数419名という成果を出すことができた、その影響もあって島全体では移住者数が年間約600名、そのうち40歳未満が約350名といった成果に繋がっていると話しました。藤野さんは「1%の人の血がたぎれば世の中は動く」と言い、村口さんも「30万人のマーケットで10年に1社上場企業が生まれる法則」を挙げて、「地方のマーケットにこだわるのではなく、首都圏等のマーケットに広くアクセスして、30万人分の売り上げを引きずりこんでいく形で、富山に頑張ってほしい」と、富山のこれからに期待を込めたメッセージを送りました。

 また、セッション終了後は、学生の起業を支援する団体T-Engineの代表理事である加藤さんが、活動のビジョンをプレゼンテーションしました。富山の未来を担うワカモノの取組みに、登壇者からアドバイスとエールが送られました。