官民連携 × 新しいモデル

官民連携の新しいカタチ~社会課題をビジネスに~

10月15日(日)、スペシャルセッション「官民連携の新しいカタチ~社会課題をビジネスに~」をKOTELO(立山町芦峅寺)で開催しました。人口減少や環境問題など、これまで行政が対応してきた様々な社会課題が複雑化して、山積する時代に入っています。そこで今、それらをビジネスで解決する人たちに注目が集まっています。社会課題を独創的なビジネスに変えていくために必要な視点とは何か、今民間企業と行政に求められている変化とは何か。「社会起業家」や「政策起業家」の方々と一緒に、官民連携の「新たなモデル」について議論を深めていきます。

朝比奈一郎

青山社中株式会社 筆頭代表CEO

入江智子

株式会社コーミン 代表取締役

川津鉄三

富山県知事政策局長

坂井亜優

株式会社キッチハイク 地域ソリューションチームマネージャー

鷲見英利

株式会社官民連携事業研究所 代表取締役

さまざまな官民連携のカタチ

 冒頭、各登壇者から自社の取り組みが紹介されました。株式会社コーミンの入江さんは、大阪府大東市にある市営住宅の建て替えを民間主導の公民連携型で進めたmorineki(もりねき)プロジェクトを紹介。敷地内にはレストラン、アウトドアショップ、ベーカリー、アパレルショップなどが軒を連ねる民間事業エリアもあり、「市から土地を借りて、建物はすべてコーミンが建てている。市は民間賃貸住宅を市営住宅として借り上げている」とユニークな仕組みを説明。「過疎化が進んだエリアだったが、年間約30万人が訪れるようになり、路線価も1.25倍になった」などの成果をあげた上で、「まちを良くするにはどうしたらいいか考えた結果このような形になった。公民連携や官民連携は私にとってみたら手段であって、目的ではない」と強調しました。

 株式会社キッチハイクの坂井さんは、1〜3週間程度、子どもが保育園に通いながら家族で地域に滞在できる暮らし体験プログラム「保育園留学」を紹介。国の一時預かり制度を活用していること、地域の既存資産をブランディングして新しい価値を生み出していることが特徴で、「教育価値の拡充や外部視点の投入を地域にもたらしている」と地域の課題解決にもアプローチしていることを説明しました。また、この事業を通して「子ども、両親、地域というステークホルダー全員が幸せになれる」とポイントを話しました。

 株式会社官民連携事業研究所の鷲見さんは、100を超える事例を持つなかで、マタニティ・ベビー用品メーカーであるピジョン株式会社と自治体の連携事例を紹介。ベビーフード等の寄贈で連携が生まれたことをきっかけに、自治体が持つ情報を提供してもらい、ベビー向け防災用品の新ブランドを開発。また、その商品を自治体に無償提供し、地域住民の声をさらなる防災対策や商品改善につなげているといいます。鷲見さんは「企業と自治体それぞれが持っているノウハウやデータを提供し合っている。結果として地域住民の幸せづくり、ウェルビーイングにもつながる」と話し、このような企業をいかに増やせるかが官民連携を推進する醍醐味だと述べました。

「営業」への認識を変えることが必要

 官民連携を推進していく上で、行政側が変わらなければいけないこととは。元市役所職員の入江さんは「地域住民の幸福や利益を長い目で考えているのが行政のいいところ」と述べた一方で、「行政が採算を考慮せずに補助金などで建てる箱物が、逆にまちの魅力を下げてしまっている場合がある。負の遺産のような行政施設をつくらず、『稼げる床』をつくって運営していくことが、エリアの価値を上げることにつながるのでは」と話しました。朝比奈さんも「箱ものではなく、市民や民間事業者が入ってくるような空間を作る視点が大事。官民でどういう風景を一緒に作っていくかを考え、エリアマネジメントしていくことが重要」と付け加えました。

 鷲見さんは入江さんの話に重ねて、「民間側は儲ける・稼ぐということが非常に大事」という前提のもと、「民間の営業をうまく活かして座組みを考えられる公務員がなかなかいない」と課題を挙げました。

 これに対し、行政に提案する立場の坂井さんも同調。「私たちもビジネスという意味では営業になってしまうが、利益ではなく、地域や住民に還元することを目的に提案していることを理解してほしい。また、外部の視点を入れない判断をしてしまうことの勿体なさに気付いてほしい」と訴えました。

 こうした営業への認識を行政側が変えるために必要なこととして、鷲見さんは「受容力や創造力・想像力が高い人材を育成すること、そういった人材が活躍できる環境をつくること」の2点を挙げました。

地域の経済循環を含めてデザインする

 一方、民間側が変わるべきこととは。坂井さんは自身の提案経験を踏まえながら「自治体ならではの内部のスケジュール感や、地域住民が第一であることなどの事情はリスペクトするべき」と発言。お互いに尊重し合い、混ざり合っていくことがこれから大事になると話しました。

 入江さんは行政側の視点から「提出された提案書を見ると、自治体の名前を書き換えて隣の自治体にも出しているのではと思うことがあった。地域のためと言いながら、地域のステークホルダーを巻き込んでいない」と指摘。民間側が、得た利益を地域でどう使うかまでデザインすることが重要だと語りました。

公平性のバランスをどう保つか

 これからの官民連携について、モデレーターの朝比奈さんが「構想や計画などの上流から連携することが大事になると同時に、公正性のバランスが難しくなる」という課題を挙げ、登壇者それぞれに助言を求めました。

 入江さんは「官民連携に関する条例をつくるのも一つ」と、大東市の事例を踏まえて提言。坂井さんは「行政と民間が深く融合することで公平性や納得性が生まれる」、鷲見さんは「実証実験から軽く始めることが大事」と主張。登壇者それぞれから具体的なヒントが出され、富山県の未来をつくる官民連携の「新しいモデル」への期待が高まるセッションとなりました。