国内外で竹あかりの空間演出を手掛ける池田親生さんは、昨年10月の「しあわせる。富山」に参加後、富山県にゆかりのある人から声を掛けられる機会が増している。しあわせるの取り組みをSNSにアップしたところ、池田さんのもとに自然と富山県に関する情報が集まってくるようになった。加えて、富山県が推進する「ウェルビーイング」に関連する活動をしている仲間たちからも連絡を受けるようになり、活動の発信が自身の周りに富山県のコミュニティを作るきっかけになった。
現在、池田さんは射水市内川周辺でのプロジェクト準備を手掛けている。活動の舞台に、内川周辺を選んだ理由は、暮らしている人たちの営みを肌で感じることができたから。観光地化されることなく、漁師が船で行き来し、水辺で小さなお店が営業し、人々が肩の力を抜いて気負いなく生活する姿に惹かれた。地域の魅力に何度も触れることで、自身の中の活動への熱量が高くなるのを実感している。
池田さんを内川に惹きつけたもうひとつのポイントは人。「しあわせる。富山」で共に登壇した明石博之さん(場ヅクル・プロデューサー/グリーンノートレーベル代表)と、内川沿いに活動場所を持つ友人の存在が大きい。「活動するためには、気に入った土地にキーパーソンやプロデューサーがいることがとても重要。僕を必要としてくれる人がいる地にはもちろん愛着が湧きますね」と話す。内川周辺を活動の舞台にしたことで、かねてからの友人だった高木新平さん(新湊市出身。富山県成長戦略会議委員/ニューピース代表取締役CEO)とのやりとりも増えている。内川がある射水市が、高木さんの出身地だということを知り、活動へのやりがいや想いが膨らんだ。「友だちは究極の資産。思い入れを持って活動できるのは、仕事の味わい方として格別なものがある」と話す。ちょっとした縁が起点であっても、その地にかけがえのない人がいて、また別の信頼できる人とのつながりが生まれていく―このような良い連鎖を生み出すためには、仕掛けとかではなく、思いや熱量といった本気の気持ちとその地で取り組みをやり遂げる覚悟に近いものが重要だ。池田さんは、「しあわせる。富山」に登壇し関わっている県外のメンバーも、自分と似た感覚や環境づくりを大切にしていると話す。「新たに富山と関わりを持つ人が増えて積み重なることで、圧倒的な変化が富山に起こるだろう」と力を込める。
竹あかりの実現には、一緒に作業してくれる地域の人の存在が欠かせない。「考えや立場の違う地域の人が集まり、一緒に手を動かす。完成したときに共通の感動や想いを持つことによって、一人ひとりの関係性もよくなる」と、住民と共に活動する理由を明かす。池田さんはこれまでの地方での活動で、地域住民が普段暮らす場所に人の集まる姿を見て、地域の可能性やポテンシャルに気付く瞬間に何度も立ち会った。竹あかりを灯す活動は、観光客を集めるだけではなく、地域に化学反応を起こすことも大きな目的だ。
昨年はドキュメンタリー番組「情熱大陸」への出演が話題になり、今年は「バカになる勇気 資本主義を無視して豊かになる29の方法」(きずな出版)を上梓。資金不足や法律の壁があっても、仲間たちと気持ちを共有しながらもさまざまなプロジェクトや困難を打ち破り、大きなうねりを起こしてきたエピソードがまとめられている。さらに今年も国内外で数多くのプロジェクトに携わる。台湾のアーティストのワン・ウェンチーさんとアドベンチャーワールド(和歌山県)でコラボ。海外のアーティストと一緒に活動することで、日本のクリエイティビティの底上げを狙っている。
また、池田さんが代表を務める「熊本支援チーム」は、今年元日に発生した能登半島地震に際して、翌日1月2日から全国の仲間とともに能登の被災地で支援活動を続けている。
これまでの活動や経験を通じ、「行政頼りにならない一歩の踏み出し方が、民間のまちづくりには必要」と話す池田さん。「予算がないなら自分で作ろうという心で挑まないと、尖った面白いまちづくりはできない」これからもポリシーは変わらない。
「富山県から自分のような活動をする人が出てくること。行政にはそんな彼らへのサポートを期待している。まだまだ富山県に通い続けるので、一緒に頑張りましょう」と熱く語ってくれた。
池田 親生 氏
竹あかり演出家/CHIKAKEN共同代表
崇城大学を卒業後、三城賢士と共に「まつり型まちづくり」を基盤に竹あかりの演出制作・プロデュースを行うCHIKAKENを設立。熊本で2日間で20万人が集う竹あかりのおまつりみずあかりのデザイン、制作指導。他、伊勢志摩サミットG7の夕食会場の装飾、世界一の奇祭とも言われるアメリカネバダで行われるバーニングマンにもアーティストとして招集される。国内外問わず竹あかりを通して日本の美を伝えている。